歯の欠損16本を7本インプラントで「即日審美インプラント・オールオン4」
「歯を抜いてインプラントにしたい。今の歯に未練はない。」という主訴でした。十分話し合い治療方針を決定した後にも確認や話し合いをしながら、慎重に進めました。
▲術前
一般的な歯科医師は、患者に「歯を抜いて欲しい」と言われても即抜歯するわけではありません。患者にとって最適な方法を考えます。科学的見地に基づいて保存か抜歯かの判断を行いますが、最終的には患者の要望とすり合わせて方針を決めていくものです。
▲術後
●インプラントの値段は税込み価格
インプラント体¥88,000-/本、アバットメント¥88,000-/本、人工歯¥110.000-/本、その他手術代などです。
●手術の副作用として腫れや痛みが出ることがあります。
●リスクとして術後感染、将来的なインプラント周囲炎、人工歯の破損の可能性があります。
さて、術後の写真を見て、どの歯がインプラントの歯に見えますか?
拡大写真を見てもどれがインプラントなのか?分からないと思います。これは、生体と調和している事を表しています。さて、今からこのケースを解説します。
40代後半の女性です。治療期間は2年弱ですが、その間一度も患者は仮歯なしの状態になりませんでした。どの段階でどのような仮歯が入るか考えながら進めました。
まず初診時点での問題点の抽出です。
問題点を虫歯、歯周病、咬合、欠損、顎骨、患者要因に分けて考えていき、最後にすべての点を結び線にしていきます。問題点が分かったら解決策を探します。おおとも歯科では、ほとんどがこの順序で進めていきます。
診断結果の詳細はここに示しませんが、診断の結果知りえた問題点というのは「歯が悪くなった原因」と繋がっている場合がほとんどです。
ですから、この原因を排除する事こそが、今後健康な口腔を長期安定させることに直結します。このような意味で「問題点の抽出と改善法の検討」は非常に重要です。放置すべきではありません。
【問題点を改善できれば…】
私が一番気になったのは、咬合の問題点です。上下顎が近づきすぎて低くなった噛み合わせを解決すべきです。そして歯の欠損修復を審美的に行う事です。
もしも歯科治療で解決させれば、顔の半分を占める口元の表情は変わります。そして、口元やスマイルラインに自信を持って頂く事で、生活に歯を見せて笑う機会が増えるはずです。すると表情筋は発達し、顔が引き締まりますので、今よりさらに美人になる事でしょう。
さて、歯科矯正により、歯並びや噛み合わせを変える事も選択肢の一つでしたが、咬合挙上の改善を矯正で行うと後戻りの問題がある上に時間と費用もかかります。本人は矯正治療を嫌がりました。歯の状態も悪く、保存も長期的には難しい状況になっています。
本人の希望や歯の状況、年齢、今後の見通しなど総合的に考える事で決まった治療方針は、「長期間維持できる、短期間で終わる治療を安い治療費で仕上げる。」という方法です。矯正治療は行わずに、外科手術と人工の歯を使い治療する事になりました。
その為に抜歯する歯と残す歯を選別します。その結果、十分残せる歯として選ばれたのは8本です。抜歯後に欠損修復する歯は16本で、これを僅か7本のインプラントで支える計画です。
彼女は私の著書「あなたに最適のインプラント」を読んでいました。知識がある為に抜歯即時埋入、即時負荷を希望していました。要するに、抜歯した日にインプラント手術を行い、その日のうちに見た目と咬合ができる仮歯を入れたいというわけです。彼女が言った「インプラントにしたい。今の歯に未練はない。」という言葉は印象的でした。
私どもは必ず「要望」を聞くところから始まりますが、医療は魔法ではありませんので、患者の願いがすべて叶うとは限りません。今回の彼女の要望についての治療難易度は高めでした。
しかし「難しい」と「出来ない」は違います。インプラント治療の場合は、患者と術者に熱意があれば、時間とお金はかかりますが叶う事が多いです。キーワードは熱意です。そして、あきらめない事。
さて、彼女の治療ですが、まずは目立たない奥歯のみ抜歯を終えた状態で骨の治癒を待ちました。人から見える前歯は、手術当日まで、仮歯を入れながら保存しています。
上前歯は一部抜歯し、残りの歯でブリッジを作り、この仮歯のまま手術日まで見た目と噛み合わせの確保をしておく
奥歯など、見えない所だけ抜歯しておき、骨の治りを待ちながら手術日を迎える
抜歯の傷が癒えたらCT撮影し、Simplantというコンピューターシステムを用いてインプラントのシュミレーション手術を行います。
ピンク色のインプラントをシュミレーション埋入
自身の骨の状態を見る事で、安心して手術を受けて頂きたいです。
このシステムを使い、サージガイドも作る事ができます。
Simplantシステムで上顎のサージガイドも設計します。
これはシュミレーション手術を実際の患者口腔内に再現するためのテクノロジーです。
特殊な3Dプリンターにメタルのドリルチューブが入ります。このチューブに沿ってドリルを挿入すれば良いのです。
これがサージガイドです。
この4つの穴に手術時のドリルを挿入すれば、事前計画通りの手術ができます。
このように十分な準備があるからこそ、午前中に抜歯しインプラントを埋入した上に固定式仮歯を装着できるのです。いよいよ手術です。
手術は、静脈内鎮静法で行われますので、患者が手術中は恐怖や不安を感じる事はありません。
【手術室で行います】
インプラント埋入手術は、2階の専用手術室で行います。ここは清潔な環境であり、暗い口腔内を照らす強力な手術灯も完備されています。
手術日には、既に診断、計画、使用材料、機材など十分に準備を終えていますので、どうぞ安心して下さい。実は術者である私も不安なく、安心して手術室に入っています。私が手術室に入った時には、優秀なスタッフにより手術の内容ごと手術道具が、使う順に並べられています。もちろん滅菌・消毒は世界レベルです。優秀なスタッフ、麻酔医のおかげで術者である私もリラックスした状態で執刀をさせて頂いています。
【シンプラントを使ったインプラント3D診断とサージガイド】
インプラントを予定通りの位置に入れるのを簡単と思ってはいけません。正確に将来並べる歯の位置が決まっていないとインプラントの埋入位置を決める事ができません。
患者それぞれの顎骨の状態を把握して、最適な位置にインプラントを入れる。位置というのは埋入位置、埋入角度、その深さです。予定通りの手術を想定してあらかじめ仮歯を作っておくって、ホント難しいのです。
難しいからこそ、おおとも歯科では確実に準備をしていきます。歯並びとインプラントの位置と顎骨の位置の最も良い位置関係を探して、それを計画し、実際の患者の口腔内に再現する必要があります。
感と経験でもある程度はいけます。私は感もいいし、経験豊富ですが非常に難易度としてはが高いものです。それを、如何に確実にやるかというと、当医院ではCTスキャンのデータを使いシンプラントを使ってインプラント3D診断を行っています。さらにそこから3Dプリンターを使い作製したドリル用のガイドを作り、手術に使っています。人力で難しいならテクノロジーの安全・安心に頼れば良いのです。
今回の「抜歯即時加重」という方法では、朝に来院して、夕方にはインプラントの歯で帰宅でき、その日に噛めるので帰宅後夕食を摂る事が出来ます。下の写真は手術後です。
▲16本の欠損歯を7本のインプラントで支えています
▲インプラント手術日に、このようなインプラントに固定された噛める仮歯が入ります。
見た目も確保された状態で帰宅できます。
1週間後に抜糸をしたら、仮歯のままインプラントと骨の科学的結合を待ちます。
上顎で6ヶ月、下顎で3ヵ月が基本ですが、おおとも歯科では「光機能化技術」を応用していますので、この治癒期間は比較的短くなります。
治癒を待って、インプラントと骨がしっかり結合したら、精密な歯型を採ります。個人トレーとシリコン印象材で精密な歯型をとります。そのほかにたわまない金属フレームとレジンでもインプラントの型を採ります。このレジンは、精密印象であるシリコンよりも収縮が少ないものです。「ここまでやるか!」というほど、精密ですが、だからこそ、顎の形に合わせた馬蹄形の大きいフレームがピッタリと口に収まるのです。
▲オーダーメードの金属フレームと世界で最も収縮が少ないレジンを使用して
インプラント間の位置の誤差を最大限に抑える努力をする
この時点でもう一回仮歯を作り直します。今度はどのような最終的な歯が入るのかを仮歯で再現したものを患者に使用してもらいます。そして使用感を聞きながら修正していき、満足できた形を見つけそのように完成品を作るという手順で進めました。
この工程までたどり着くまでに、何度となく歯並びの確認、変更、試適を繰り返しています。「手術は終わったのだから早く歯を入れたい」という患者の焦る気持ちは、理解していますが、ここは大切な所です。妥協できない地味な努力を続ける我慢の期間です。
優秀な技工士と相談しながら最終形態の計画を立てます
彼女の場合は、義歯部分に人工歯肉を作る方法でなく、特殊な外科手術を行い自分の歯肉を再生させて、歯の部分だけが人工物になるように設計しました。
▲まだ完成ではありません。この形で良いものか?実際に口腔内に入れてみて、
患者の要望を聞き、形態確認をしていきます。
(注意)一般的には、歯を失った方は、歯の周囲の骨や歯肉も失っていますので、そこを人工の歯肉で補う必要があります。このケースはおおとも歯科で、骨を失わない特別な抜歯方法を行ったので、このような治療が可能となりました。(どの患者でもできるものではありません。)
歯の入るくぼみと歯の間の歯間乳頭を作り美しい歯肉を目指します。この手術法は、従来の麻酔してバーで歯肉を削り減らす方法でなく、歯肉を増やす大友孝信オリジナルの外科手術です。
最終補綴物の完成の為には、この歯肉の歯型と仮歯の形を正確に技工士に伝える必要があります。歯科医師は担当技工士に様々な情報を伝達した上で、何度もメールや電話で相談しながら連携して完成を目指します。
【設計相談に使う資料】
- 技工指示書に加え、メールや電話の情報
- 口腔内全体の歯型
- インプラントの正確な位置関係を伝える歯型
- 仮歯で決めた歯の形を伝える歯型
- 歯肉の形を伝える歯型
- 噛み合わせ、上下顎の関係を伝える歯型
- 顎の位置、ズレを伝える写真
- 唇の見え方を伝える写真
- 歯肉や歯の色を伝える写真
- レントゲン写真患者の要望
患者に「ありがとう」と言われるのは担当医ばかりですが・・・
この複雑な仕事は到底一人ではできるものではありません。優秀な技工士、歯科衛生士などのプロフェッショナルチームのおかげでこの複雑な治療が可能となっています。
当院スタッフは、工程ごとに異なる資料を整理し、担当技工士に伝達してくれます。工程毎に変化する診療時間のスケジュールの調整など、患者には見えませんが重要な仕事をしています。彼女たちが私の不得意分野をカバーしてくれるおかげで、私は得意な事、重要な事に神経を集中させる事が出来ているのだと感謝しています。
さて、歯型と資料を受け取った技工士によって、最終的な歯が出来上がります。今回はジルコニアという金属よりも硬い特別なセラミックを用いで頑丈なフレームで仕上げます。
ジルコニアとは、金属よりも硬い第三世代セラミックです。半焼成のジルコニアブロックを歯の形に削っていきます。
▲ここでは、下顎の奥歯の作製の手順の一部を示します。
コンピューターがセラミックブロックを削って歯を作り、
この後で技工士の手によって完成されます。
半焼成のジルコニアブロックは、まだダイヤモンドで削れる硬さです。しかし、この後で、炉に入れて本焼きすると密度が上がりぎゅっと固まります。そして非常に硬くなります。
分子間のすき間がなくなり縮む量を計算して、コンピューターは大きめに削り出してくれます。すごいテクノロジーが生活の中に溶け込んでいます。この時代に生まれてよかったですね。
▲高温で溶かしたセラミックで色付けして、それを磨いていきます
上顎もコンピューターで設計しますが、まずは、立体的に設計したものを3Dスキャナーでコンピューターに取り込みます。マウス操作で設計を仕上げて、機械が削り出してくれます。下の画像はコンピューターで設計をする画面です。
噛む面は強度の高いジルコニアセラミックで作り、審美的な部分は後からセラミックを盛るので、そのスペースはくり抜いた状態。(上顎だが上下逆に示しています)
▲上顎フレームの完成。このフレームに色のきれいなセラミックを盛っていきます。
下顎は歯の形になっています。
機械がやるのは一部の工程だけです。重要なところは、全て技工士が行います。良く研磨されたセラミックは、汚れもつきにくいです。
▲優秀な技工士により完成した美しい歯は天然歯よりきれいですね。
▲さて、口腔内に装着しました。正面から見るとこうです。素敵ですね。
▲横から見るとこうです。下顎の奥歯もインプラントです。
▲前歯を横らか見るとこんな感じです。
歯肉と歯の付け根のカーブは「ガルウィング」という調和した状態です。
▲患者とも技工士ともたくさん話し合いながら完成させた歯です。
とても美しい口元に仕上げました。
治療の終わる日をどれだけ待ちわびた事か、あきらめないで頑張った患者が報われた記念日です。患者もうれしい装着日は、私たちにも本当にうれしい日です。
一人の患者の要望を叶える為には、多くの人が携わっています。
休みの日に勉強している当医院のスタッフや技工士、その技工物を大切に運んで下さった宅急便の皆様、インプラントメーカー、材料開発、販売会社やコンピューター会社の人など・・・彼らの仕事に費やした努力が報われた瞬間に立ち会えた私たちはラッキーです。
この状態を出来るだけ長持ちさせたいと思っています。その為にインプラントメインテナンスに通って頂く約束もさせて頂きました。
この治療のケースですが、インプラントを検討している人の力になりたいという事からご厚意で説明用に情報を提供して下さいました。本当にありがとうございます。このケースを見た「歯の悩み」を持った人が望みを持って頂ければ嬉しいです。
そして、長い文章を最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。
(注意)インプラント治療をしたからといって、もう一生問題が出ないと決まったわけではありません。
詳しくは→インプラントの寿命(サクセスレート)へ
私たちは、一日でも長くお口の健康が続くように、スタッフ一同インプラントのメインテナンスを続けていきたいと思っています。